「白人がキャスティングで優遇されてしまうのは、リアルに起きている」日系アメリカ人の映画監督が語る、ハリウッドの裏側

    ハリウッドで19年間働いてきたシンタロウ・シモサワ監督が、人種差別問題について思うこととは。

    白人、特に白人男性が特権を持つハリウッド映画界では、人種差別に対する議論は絶えない。

    2016年には、ウィル・スミスやイ・ビョンホンなど、著名スターたちがハリウッドの人種差別や偏見の問題を訴えている。

    「白人がキャスティングで優遇されてしまうのは、リアルに起きていること。不幸なことに、それが真実だ」

    そう語るのは、シカゴ生まれの日系2世の映画監督、シンタロウ・シモサワさん(43)。全米1位を記録したハリウッドのリメイク版『THE JUON / 呪怨』の共同プロデューサーとして知られている。その他にも、TVドラマの脚本などを手がけてきた。

    ハリウッドで19年間働いてきたシモサワ監督が、人種差別問題について思うこととは。BuzzFeed Newsは、ネット電話でシモサワ監督に話を聞いた。


    ハリウッドで働くということ

    両親は日本出身で、自身は都会のシカゴで生まれ育ったシモサワ監督は、アジア系アメリカ人だから仕事が有利、不利と感じたことはないと話す。ハリウッドでも、あからさまな差別を受けたことはないという。

    「カリフォルニアは、リベラルな場所だから、排他的な差別はあまり感じない。でも、差別は存在する」

    近年、ハリウッドで人種差別問題として注目されてきたのがアカデミー賞だ。

    「真っ白なオスカー(OscarSoWhite)」。2015年第87回アカデミー賞の演技部門で、候補者20人のうち、全員が白人だった。これに違和感を抱いた人々がTwitterで使い始めたハッシュタグだ。

    翌年のアカデミー賞も20人全員が白人だったことで、映画監督スパイク・リーなど著名黒人俳優や監督によるボイコット運動が起きた。

    また、非白人の役を白人俳優や女優が演じること(ホワイトウォッシング、whitewashing)も少なくはない。

    最近だと、ハリウッド実写版『攻殻機動隊』の主役で、原作では草薙素子との名を持つ「少佐」をスカーレット・ヨハンソンが演じると発表され、批判が殺到した。

    なぜ日本人として設定されている役を、白人の女優が演じるのか。アジア系の俳優には、スクリーンで輝く機会は与えられないのか。オリジナルに忠実な作品を観たい。このような意見によって、アジア系の女優を要求する署名運動にまで発展した。

    これらの非難に対し『攻殻機動隊』のプロデューサー、スティーブン・ポールは、BuzzFeed Newsの取材でヨハンソンのキャスティングを弁明している。

    「日本だけを舞台にした話ではないと思う。『攻殻機動隊』は、インターナショナルな物語で、日本人だけに集中していない。世界全体の話であるはず」

    白人のハリウッドスターを選ばざるをえない市場

    シモサワ監督は「ホワイトウォッシングが存在するのは悲しい」と話す。そして、映画製作に問題があると見ている。

    「非白人で才能を持っている人たちがいるのは明らか。市場がそんな仕組みになっているだけ。非白人をキャストに選ぶと、十分に稼げないと思っている。財政で動くことがほとんど」

    確実に興行成績に結びつくスカーレット・ヨハンソンか、誰も聞いたことのないアジア人の女優か。キャスティングでどちらを選ぶかは、明確だ。

    「金銭的な理由があるのはわかる。でも、なぜハリウッドがアジア系のスターを育てようとしないのかが、理解できない。もっと最前線に立つアジアの俳優・女優が増えてほしい」

    ハリウッドでの人種差別は少しずつ改善されてきているとシモサワ監督は話す。

    90年代にスクリーンに出てくるアジア人と言えば、カンフーファイターや、クリーニング屋の役がほとんどだった。しかし近年でアジア人が登場する回数は増え、いろいろな役柄も出てきたという。

    「人種問題がハリウッドで意識されるようになってから、キャスト、映画製作、脚本家やテレビ番組の多様性に大きな変化があったと思う」

    ハリウッドの多様性と映画製作

    多様性を追求するあまりに、表現やプロダクションそのものを制約してしまわないのだろうか。

    シモサワ監督は、とあるテレビ番組の現場責任者の発言を振り返る。

    誰が一番の脚本家かなんて、どうでもいい。多様性が必要なんだ。黒人について書くんだったら、黒人を集める。アジア系の女性が出てくるんだったら…って。何か今までとは違うものを作らなきゃいけないんだよ。白人による白人のためのテレビ番組を制作してはいけないから。

    また、別のテレビ番組でコンサルタントとして携わっているシモサワ監督だが、このような会話があったという。

    主人公は白人なんだろう?じゃあ、兄弟をアジア人にしよう。

    アジアから連れてきた養子なのかもしれない。逆に主役がアメリカ人の養子で、家族が韓国人なのかもしれない。無理のある設定をもとに物語が作られていくのだ。

    「なんで、どうやって…と思う。でも、このような意見交換が進んでいくんだ」

    映画製作側が人種差別問題に向き合うのに、これらのような会話は必要だとシモサワ監督は説明する。

    「人種差別をなくすには、そのことについて話し合わなければいけない。教育しなきゃいけない。人とは何か。これに向き合うことでキャスティングや脚本が変わると思う」

    シモサワ監督は、今後ハリウッドで「この人種の人は、この役」という偏見を超えた作品が出るのを楽しみにしているという。

    「いつか、白人の俳優たちがマジな武道アクションする映画を観てみたい」

    また、日本人はハリウッドにもっとチャレンジしてほしいと話す。

    「日本人の映画製作者がハリウッドにあまりいないんだ。アジアのホラー映画監督、日本のアクション映画やドラマ映画の監督の波が過去にもあった。日本の監督や脚本家に、もっと来てほしい。ハリウッドでチャレンジしてほしい」


    2017年1月7日、日本全国で公開される初の監督作品『ブラック・ファイル—野心の代償—』(原題:MISCONDUCT)は、アメリカの巨大製薬会社の薬害問題にまつわる法廷サスペンス映画。

    アル・パチーノ、アンソニー・ホプキンスの初共演のほかに、韓国の人気俳優イ・ビョンホンなど豪華キャストが揃っている。

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    SHOCHIKUch / Via youtube.com

    シモサワ監督は、映画についてこう述べる。

    「日本の観客が普段観ているアメリカの映画とは違うと思う。この映画で私たちが試していることを受け止めてくれることを願っている。ロジックじゃなくて、観て感じるものを大事にしてほしい」