アニメに国境はない!ヒジャブ・コスプレを楽しむイスラム教の女子たち

    「情熱と想像力さえあれば、何でも可能です」

    「大好きなコスプレを、イスラム教の教義にできる限り逆らわない方法で楽しみたい。そこで誕生したのが『ヒジャブ・コスプレ』です」

    人前で顔と手以外肌を見せてはいけないという制限のなかで、ムスリム女性が頭髪を覆うのに使う布・ヒジャブを工夫し無制限に楽しむ「ヒジャブ・コスプレ」。

    近年マレーシア、インドネシア、シンガポールを中心とした地域の、日本アニメやマンガのオタクであるムスリム女子の間で流行っている。

    日本でもレディビアードなどのプロデュースを手がける立花奈央子さんが「ムスリムのレイヤーもヒジャブを活用したヘアスタイリングが進化中っ」とTwitterに投稿し、話題を呼んだ。

    BuzzFeed Newsは、ヒジャブ・コスプレを楽しむイスラム教徒の女子3人に話を聞いた。

    「コスプレは宗教関係なく誰でも楽しめるもの」

    インドネシアに住むシンディ・ヤンティさん、24歳。2011年からヒジャブ・コスプレを始めた、裁縫師だ。

    地元テレビ局のトークショー番組で紹介されるなど、ヒジャブ・コスプレをインドネシアに広めた貢献者の一人でもある。

    「小さいころに日本のアニメをテレビで見て育ち、そのうち漫画にもはまり始めました。いつも、ヒロインに憧れていたんです」

    1980年代以降、第一外国語の英語以外にも日本語の教育が人気なインドネシア。ヤンティさん自身も高校で日本語を学ぶ機会があり、その時に日本の文化に興味を持ち始めた。

    「インドネシアでもコスプレがポップカルチャーとして広まり始めたことを知り、衣装を作るようになりました」

    しかし、多くのムスリム女子が経験するように、ヤンティさんは自分の信仰とコスプレの間で葛藤を乗り越えなければいけなかった。

    「イスラム教では、女性は髪を見せてもいけないし、カツラもつけてはいけないんです」

    コスプレをしてみたいけど、そのためにはカツラをつけるか、ヒジャブを外さなければいけない——。

    ヤンティさんは、そう悩んでいた時に「別にヒジャブを外さなくても、キャラの髪型にすればいいんじゃないか」と思いついた。

    パーティー用のヒジャブの巻き方を調べ、自分がなりたいキャラクターのヘアデザインにどうやったら似せられるかを研究。衣装はすべて手作りだ。

    ほかのムスリムの女子にも、少し工夫すればコスプレが楽しめることを伝えたく、ビデオや画像をSNSに投稿している。

    ヒジャブを見慣れないコスプレイヤーから「ここにいるべきはない」と批判されたり、ネット掲示板でヒジャブ・コスプレイヤーに対するネガティブな書き込みを見かけたりすることもある。

    しかし、ヤンティさんは気にせずにコスプレを続けることを決心。それは、「認めてくれる人たちと楽しむため」だと話す。

    「コスプレは宗教関係なく誰でも楽しめるものだと思います。何らかの理由で表現を制限されているとしても、みんなの想像力は無制限だということを知ってほしい」

    世界コスプレサミットなどの大会で優勝を夢見るヤンティさん。

    「コスプレだと、みんなと違っていてもいい。だからこそ、違いばかりを探さず、共通していることを一緒に楽しんでいきたいです」

    ヒジャブ・コスプレのコツは「キャラの特徴をなるべく壊さないこと」

    シンガポールの大学に通う20歳の学生クロミさんは、3年前にヤンティさんをYouTubeで見かけてからヒジャブ・コスプレを始めた。

    「シンディ・ヤンティを知る前までは、コスプレをしようと思ったことがなかったんです。すごく驚いたのとインスピレーションを受けて、自分もやりたいと思うようになりました」

    最近、気に入っているキャラクターは、「エロマンガ先生」のメインヒロイン・和泉紗霧、「ラブライブ!」の南ことり、そして「黒執事」のセバスチャンだという。

    「最初は、自分の好きなキャラになれることが楽しかったのですが、実際会う人たちやネット上で会話する人たちと仲良くなってからは、コスプレがさらに楽しくなりました」

    ヒジャブ・コスプレのコツは?「キャラの特徴をなるべく壊さず、髪の色になるべく近いヒジャブを選ぶこと」。

    ヒジャブの生地によって、キャラクターの髪の毛の再現具合が変わってくるそうだ。

    少しずつ受け入れられているヒジャブ・コスプレ

    マレーシアに住む21歳の事務職員ミーサさんも、ヒジャブ・コスプレを楽しむには想像力が欠かせないと語る。

    「どのヒジャブ・コスプレイヤーも自分の想像力を使って衣装をデザインしていると思います。情熱と想像力さえあれば、何でも可能です」

    高校のころからずっとやってみたいと憧れていたコスプレを、2016年から始めたミーサさん。

    ミーサさんによると、マレーシアでは2012年頃からヒジャブ・コスプレを見かけるようになった。そして現在、マレーシアとインドネシアを合わせたコミュニティの大きさは約1000人で、毎年増えているという。

    また、4月にはマレーシア・クアランプール郊外のモールでヒジャブ・コスプレのイベント「Japan Otaku Matsuri」が開催されるなど、注目度が高まっている。

    「ヒジャブ・コスプレって知らない人にとってはちょっと変なものだから、見下されることもあるけど、少しずつ受け入れられてきています。ヒジャブのコスプレ女子がここまで達成することができて、とても嬉しいし誇りに思っています」

    国境や宗教を越えてつながっているミーサさんのコスプレイヤー仲間は、励まし合える大事な存在だと話す。

    「コスプレは楽しみ、情熱と愛がすべて。コスプレイヤーは同じ趣味をもつ、姉妹たち——大きな家族です」