安田純平さんへの「自己責任」批判 イラク拉致事件の今井紀明さんに聞く

    自己責任だと安田さんを攻める声に、14年前に同じ批判に晒された今井さんは何を思うのか。BuzzFeed Newsが話を聞いた。

    シリアで取材中に拉致され、3年間拘束されていたフリージャーナリストの安田純平さんに対して「自己責任だ」と批判する声が出ている。BuzzFeed Newsは14年前にイラクで拘束され、同じ罵声を浴びた今井紀明さん(33)に話を聞いた。

    「批判するのではなく...」

    今井さんは安田さん解放のニュースを聞き、TwitterとFacebookで自分の思いを公開した(全文は記事末尾)。

    安田さんを問い詰める必要はない。安田さんは意思を持ってジャーナリストとして行動してきた。様々な意見があると思うが、安易に批判するのではなくまずは一人の人として受け入れる。そうすることで誰かが動き、挑戦していくことを応援できる社会にすることが僕たちができることなのではないだろうか。

    イラクで武装勢力に拘束され、日本中の注目を集めた今井さんは現在、学生時代の仲間と立ち上げた認定NPO法人「D×P」を運営している。

    定時制や通信制の高校生たちと「大人」の交流の場を作り、様々な進路に進む若者たちをサポートしようという取り組みだ。活動は年々拡大し、関西を中心に20校の1000人と向き合っている。

    そうやって、今では紛争地や中東などとは関係ない活動に携わる今井さんは、何を思ってメッセージを発信したのだろう。

    「今の本業とは直接関係ないように思えますよね。でも、僕は関係があると思えました。誰かを否定し、萎縮させる社会では、僕がいま関わっている高校生たちも安心して動き、挑戦ができない世の中になってしまうから。それが僕たちが作りたい社会なのか」

    「帰ってきてよかった、だけで本当はいいと思うんです」

    そう語る今井さんが振り返るのは、自身の経験だ。

    批判だけでなく、偶像化もプレッシャーに

    今井さんがイラクで拘束されたのは2004年、イラク戦争が終結して1年が経ったころだった。高校生のころから紛争や平和に関心があり、劣化ウラン弾の被害を現地で見たいと訪問した。武装勢力に9日間拘留され、解放後に帰国すると「自己責任」「自業自得」と批判された。

    ネット上には「死ね」「国に迷惑をかけた」などの書き込みが広がり、街角で罵声を浴びたり、いきなり殴られたりしたこともあるという。人と会うのが怖くなり、引きこもった。

    だからこそ、安田さんにこれから浴びせられる言葉が想像できるし、他人事ではない。批判だけではない。当時、過度に持ち上げるような言葉にもプレッシャーを感じたという。

    「僕の時には、知らない人からすごいことをしたかのように英雄視されることもありました。僕はそういうことも望んでませんでした。路上で殴られたり罵声を浴びて苦しみましたが、『今井くんはすごいことやった』みたいな空気ももっとつらかった。現実的に何もしていませんでしたから」

    安田さんは解放後にNHKから取材を受け、体調について聞かれて、「大丈夫です」という言葉に続いて「大変お騒がせして申し訳ないと思っています」と話している。

    「安田さんはジャーナリストとして取材に向かったけれど、捕まってしまった。そのことについては本人が一番悔やんでいるかもしれない。そして、どうやって社会と接していいのかわからないはず。今はとにかく静かにしてあげるのが一番だと思います」

    「安田さんに限らない」

    今井さんの拘留は9日間だったが、それでも「殺されるかもしれない」と精神的に追い詰められたという。

    「3年間という期間は想像もできないぐらい精神的な負担が強かったと思う。会見や取材を通じても追い込まれてしまうかもしれない。とにかく温かく迎えて欲しいと思います」

    紛争地で苦しむ人たちの姿や、その人たちの声を世界に知ってもらうには、誰かが現地に行く必要がある。より多くの人が知ることで、支援の動きが広がり、救われる人もたちもいる。

    だが、危険な場所であればあるほど、現地から伝えようとするジャーナリストの身も危険に晒される。安田さんは結果として、囚われの身となった。

    「安田さんに限らないんです。自分の信念で困難に挑戦しようという人を、何かあったからと批判し、萎縮させる社会でいいんでしょうか。そういう社会で、これからを生きる若者は自分の動きたいことに真っ直ぐ動くことができるでしょうか。高校生たちと向き合っていて、そう感じます」


    今井さんが公開したメッセージ全文

    安田さん、無事に帰ってきてほしい。僕たちができることは、暖かく見守って彼を受け入れること。自らの行動は、自分で振り返ればいい。周りがとやかくいうのではなく、僕たちは3年も人質として困難な生活を送ってきた彼を受け入れることが日本社会ができることだと思う。

    人質になる生活はいつ帰れるのかわからない、いつ殺されるのかもわからない。自分の命はここで終わるかもしれない。精神が病んでいく。きっとその生活の中でも辛い時や平穏なときとかもあったかもしれないが、身体を蝕んでいく。その生活を3年も送ってきたのだから、まずはゆっくり休んでほしい。

    安田さんを問い詰める必要はない。安田さんは意思を持ってジャーナリストとして行動してきた。様々な意見があると思うが、安易に批判するのではなくまずは一人の人として受け入れる。そうすることで誰かが動き、挑戦していくことを応援できる社会にすることが僕たちができることなのではないだろうか。

    また、安田さんの救出・解放に向けて動いた方が多くいらっしゃったと思う。‬まだはっきりとしたことはわからないが、政府関係者や民間人など多くの人が動いてくれたのだろう。そういった全ての方々にも感謝をしたい。

    以上、僕にできることは何かと考えた時に社会に対してメッセージを出すことだと考えたので発信した。マスコミ関係者から多数昨日より取材依頼がきていたが、今僕が言いたいのは以上のメッセージです。