新聞の正月紙面は、各社がスクープや力を入れた特集などを掲載する見せ場だ。2019年1月1日の全国紙1面トップを比較してみた。
「昭和天皇が晩年に和歌を推敲するために使ったと見られる原稿が見つかった」という特ダネだ。歌集に掲載ずみの歌の推敲段階と見られる41首と未掲載のもの211首が含まれているという。
あゝ悲し戦の後思ひつゝしきにいのりをさゝげたるなり
国民の祝ひをうけてうれしきもふりかへりみればはづかしきかな
記事では先の大戦への思いを「あゝ悲し」「はづかしき」などと記していたことなどが紹介されている。記事は社会面にも続き、戦争だけでなく、家族や国民、親しい人たちへの思いを綴った歌を多数掲載している。
作家の半藤一利さんは昭和天皇が岸信介元首相の死去に際して詠んだ「その上にきみのいひたることばこそおもひふかけれのこしてきえしは」との歌を挙げて、こう述べている。
「昭和天皇は、岸首相の考えを『おもひふかけれ』と評価し、深く思いを寄せていたのかと複雑な気持ちにとらわれる」
「安倍晋三首相が新元号を4月1日に閣議決定し、同日中に公表する方針を固めた」という特ダネ。NHKや毎日新聞もほぼ同じタイミングで報じたが、1面トップに持ってきたのは産経新聞だけだった。
元号公表のタイミングは、元号の変更に伴う様々なシステム改修が間に合うかにも関わるため、注目の的だった。記事では「首相は皇室の伝統を尊重しつつ国民への影響を最小限にすることを重視するように指示」したと述べている。
記事では元号の公表時期が遅くなれば「ウィンドウズの更新が間に合わない」「年金や失業手当の給付に支障をきたす恐れも」などと指摘。一方、天皇と元号は不可分と主張する一部議員らが新天皇による新元号の公表と公布を求めていたことにも触れている。
毎日新聞はストレートニュースではなく、特集をトップにおいた。「平成という時代」と題し、社会の変化と価値観の多様化、その先にあるものを追う企画だ。
1月1日紙面ではバスケットボール女子のオコエ桃仁花選手を取材。ナイジェリア人の父、日本人の母、兄にプロ野球のオコエ瑠偉選手を持つ19歳だ。
桃仁花選手が「人と違う」ことを意識して「同じ髪、同じ肌になりたい」と感じていた子供の頃から、父の祖国を訪問して「他の日本人と同じでなくたっていいんだ」と感じるようになったというエピソードを紹介している。
記事では、厚労省の統計で両親のどちらかが外国人出身の子供は新生児の50人に1人にのぼることや、桃仁花選手だけでなくテニスの大阪なおみ選手などの活躍にも触れ、「『日本人』の概念もグローバル化した」と指摘した。
「政府は2019年4月にも、電力、水道などの重要インフラ関連企業が持つ主要な電子データについて、国内のサーバーでの保管を要請する方針を固めた」との特ダネだ。
記事では中国の通信大手ファーウェイやZTEを政府機関の調達から排除する動きが欧米で広がり、日本政府や企業もそれに続く状況を記した上で、今回の電子データの国内保管の動きを「こうした対中包囲網の延長線上にある」と指摘した。
行政機関や重要企業が利用するサーバーが国外に置かれている例の実態調査を政府は進めており、「核心のデータではないが、国外で保管されている例もあった」という政府関係者のコメントを紹介している。
日経新聞も毎日新聞と同様に特集を1面トップに置いた。「新幸福論Tech2050」と題し、テクノロジーの加速度的な進化とともに、幸福のあり方も変わる未来について、様々な最先端事例を紹介した。
一つ目に挙げたのがカリフォルニア大サンディエゴ校の研究。iPS細胞から作った「人工脳」から赤ちゃんの脳と似た脳波を確認したという。脳科学の権威クリストフ・コッホ米アレン脳科学研究所最高化学責任者が「事故や病気で脳が損傷しても人工脳で一部を置き換えられる可能性がある」とコメントしている。
次に紹介したのはワシントン大とカーネギーメロン大の研究。3人の脳をヘッドギアなどで結び、脳波を通じて共同でゲームをする。ミゲル・ニコレリス米デューク大教授は「脳同士が会話できれば言語すらも省略できる」と話している。
記事は「テクノロジーの進化が生き方や社会の仕組みを変える。人間とは何か。答えを探る道が始まる」と結んでいる。
各紙が力を入れる正月紙面の1面トップ記事だが、BuzzFeed Newsがネット上のTwitterやFacebookなどでのシェア数やリツイート数などを調べるツール「Buzzsumo」で調べたところ、ネット上ではほとんど拡散していない。
Yahoo!JAPANのランキング(1日午前11時36分現在)を見ると、トップ20のほとんどをスポーツと芸能ニュースで占めている状況だ。
各紙の記事にはリンクを張っているので、そちらもぜひどうぞ。