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LGBTファミリーが増えている。悪い影響?「なに言ってんのかわかんない」と元気に育つ子供たち

子育てをするLGBTカップルが日本でも静かに増えている。

1月26日、その記事が公開されると、ネットには祝福の声が溢れた。「ゲイとトランスジェンダーと母と子 新しいファミリーが生まれた」。私がトランスジェンダー男性の杉山文野さんとパートナー、そして、精子提供したゲイの松中権さんの三人に取材し、赤ちゃんが生まれるまでを描いたものだ。

圧倒的に多かった祝福の声

「ホッとした、というのが正直な気持ちですね。記事が出るまではどう受け止められるか不安でしたから」と文野さんは振り返る。

LGBTヘの理解は以前よりは進んでいるとはいえ、今も偏見や差別は根強い。まして、LGBTが子供を育てることに関しては、事例自体が少なく、メディアが報じることもほとんどない。「『普通』と違う家庭で育つ子供は不幸なんじゃないか」などという人もいる。

実際には記事への反響は、温かいものが圧倒的に多かった。数日で数万件のコメントがネットに書き込まれ、大半が「おめでとう」「お幸せに」とお祝いするものだった。

「LGBTに関する活動をしていると、当事者コミュニティでも意見がわかれる。でも、普段は冷静に厳しいポイントをついてくる人でも、新しい命を祝福する人が多かったです」と文野さん。

権さんも多くのゲイの先輩たちに祝福されたという。「新宿2丁目のゲイバーのマスターで『自分はとても幸せだけど、唯一の後悔は子供を持てなかったこと』と言っていた恩人が泣きながら喜んでくれて『この子は僕らの未来だ』って」

文野さんと権さんのもとには、記事を読んだLGBT当事者たちから「私たちも子供を持ちたい」という相談が来る。当事者以外からも「実は不妊治療をしている」「養子を育てようと思っている」などと打ち明けられることもあるという。

それぞれの人たちが、自分や家族の中で抱えてきた事情がある。そこには「普通の家族」なんてない。

お互いに家族であることを確認し合う「にじいろかぞく」

実は、文野さんたちの家族が「先例」というわけではない。都内には子育て中のLGBTファミリーが集まる団体「にじいろかぞく」がある。代表の小野春さんは同性パートナーと共に三人の子供を育てている。

結婚し、子供を産み、離婚し、そして、今のパートナーと出会った。「にじいろかぞく」の活動を始めたのは、LGBTファミリーに関する情報が少ない中で、交流の場を作るためだ。今では当事者以外でも様々な家族や支援者が集まり、今年度は60人ほどの会員で定期的に交流会を開いている。

小野さん家族のような事例の他、人工授精で子供を産んだレズビアンカップル、トランスジェンダーでママ友の輪に入っていくことに不安感を抱く人など、背景は様々。「学校や保育園などでどこまで事情を説明するか」「子供へのカミングアウトをどうするか」など、相談事も色々だ。

「例えば、同性カップルで産みの親ではない方が保育園にお迎えに行かないといけないとき。男女のカップルだったら『お父さん偉いね』という反応があるのに、レズビアンカップルだと『あの人は誰?』とか、『産んでもいないのに』みたいに捉えられがち。そうするとカップルで一緒に育児していくことが余計に難しくなる」

「にじいろかぞくの役割の一つは、参加している人たちで『あなたたちは家族だよ』とお互いに確認しあうことなんです。私たち自身は自分たちのことを家族だと思っている。でも、世間から『あんたたちは家族じゃない』という扱いを度々受ける。だから、『他人からなんと言われようと、あなたたちは家族だよ。大切なのは自分たちの思いだよ』と」

小野さんの子の一人はもう大学生だ。小野さん自身も「LGBTに育てられる子供は不幸になるんじゃないか」というような声に、反発を感じながらも不安になることもあったという。

「私なりに精一杯頑張ってきたつもりだけれど、子供がどう思っているかはわからない。『子供に悪い影響があった嫌だ』ということを私自身が思っているところがありました」

でもある日、LGBTファミリーについて取材を受けたときに「悪い影響があるという意見についてどう思うか」と聞かれた子供が「何言っているのか、よくわかんないですね」と即答するのを聞いた。

「それを聞いたときに、ホッとしたという以上に『ああ、私自身も周りの声に囚われていたんだ』と感じました。私はLGBT当事者だけど、子供は子供でLGBTファミリーで育つ子供としての当事者。その子たちの声に耳を傾けていきたいと思っています」

同性カップルが20万人以上の子供を育てるアメリカ

主にアメリカのLGBTファミリーの現状を詳しく取材した「ルポ 同性カップルの子どもたち」には、様々な事例やデータが紹介されている。

それによると、2013年時点の調査で、アメリカでは同性カップル11万2000組が18歳以下の子ども21万人を育てていると推計されている。同性カップルの子育てに関する研究について、アメリカ心理学界は同性愛者の親を持つ子が異性愛者の子に比べて不利益があると示す研究は「一つもない」と結論づけているという。

日本はアメリカと比べるとLGBTムーブメントの広がりが遅かった。そして、LGBTファミリーの広がりもさらに遅い。「でも」と権さんは言う。

「僕たち三人が子供を持てたのは、日本でもたくさんの先輩たちがいて、少しづつ変わってきたから。そして今僕たちがいて、将来はもっと当たり前になっているかもしれない、と思うんです」

「世の中は変わらない」と言われた10年前。でも、変わった

私は新聞記者だった10年ほど前に、LGBT当事者への取材を始めた。当時はカミングアウトする人も少なく、取材を断られることが多かった。「どうせ理解してもらえない。世の中は変わらない」と言われたこともある。

だが、権さんが指摘するように世の中は少しづつ変わってきた。東京レインボープライドが今の形で始まった2012年の参加者は約5000人。2018年は約15万人と30倍になった。家族連れの姿も見られるようになった。

2019年には同性の結婚の法制化を問う集団訴訟も始まった。当事者や支援者も「こんなに早く始まるとは思わなかった」と口にする。同感だ。変化は欧米でも、アジアでも、日本でも広がり、加速している。

「LGBTだから子供が持てない」などということはない。

「その可能性さえ考えられなかった」という声を、これまでに多くの当事者たちから聞いた。でも、すでにLGBTファミリーはここにいる。

可能性を知った人たちが、さらに流れを加速させていく。

(この記事は東京レインボープライド機関紙「BEYOND」第5号に寄稿したものを再編集しました)


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BuzzFeed Japanは東京レインボープライドの公式メディアパートナーとして、2019年4月22日から、セクシュアルマイノリティに焦点をあてたコンテンツを集中的に発信する特集「レインボー・ウィーク」を実施します。

記事や動画コンテンツのほか、オリジナル番組「もくもくニュース」は「もっと日本をカラフルに」をテーマに4月25日(木)午後8時からTwitter上で配信します(配信後はこちらからご視聴いただけます)。また、性のあり方や多様性を取り上げるメディア「Palette」とコラボし、漫画コンテンツも配信します。

4月28日(日)、29日(月・祝)に開催されるプライドフェスティバルでは、プライドパレードのライブ中継なども実施します。