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「24時間営業、もう限界だよ」便利さの裏に。コンビニオーナーの悲鳴

なくては生きていけないけれど。

コンビニ業界に異変が起きている。ATMや宅急便などサービス拡充に伴って増える業務、足りない人手。限界を感じて24時間営業をやめたベテランオーナーが現場の窮状をBuzzFeed Newsに語った。

「24時間365日、もう限界だよ。働く人、いないもの」

50代の男性Aさん(仮名)は、10年以上にわたって大手コンビニのフランチャイズオーナーをやっていた。セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートのいわゆる「御三家」だ。5年前、契約更新に伴って、規模の小さいチェーンに乗り換えた。

「やっぱり御三家ってすごくてさ。乗り換えたら、売り上げは3割減ったよね」

それでも御三家をやめたのは、乗り換えた先が、「24時間営業をしなくてもいい」「がんばりすぎない」チェーンだったからだ。

「もう、疲弊するだけの“コンビニ戦争”は、たくさんだよ」

その「戦争」の現状は、どのようなものなのか。

「ファミレスもすき家も24時間やめてるのに」

1月、東京都・武蔵野市のセブン-イレブンで、病欠の際にシフトの代役を見つけられなかったアルバイト店員に対して、オーナーが罰金を要求していたことがTwitterの投稿で発覚。炎上した。コンビニの人手不足が、あらわになった。

「きっと、同じような話は他にも山ほどあると思う。罰金なんて絶対やっちゃいけないことだよ。でも、オーナーの気持ちもわかる。それくらい、人が足りないのが現実なんだ」

1店舗を24時間、365日回すのに必要なアルバイトの人数は、だいたい20名ほど。大学生が中心だが、なかなか集まらない。特に深夜に2人体制を組むのが難しいという。

「ファミレスだって深夜営業をやめてるし、すき家もワンオペを批判されて、深夜をやめているところもあるのにね。でも、コンビニだけは別なんだ」

なぜか。理由の一つはATMだ。

「今、コンビニにとってATMとトイレは、店に来てもらうきっかけとして、絶対外せないもの。ずっと店を開けているのは、ATMを守るという意味があるんだ。だから、ATMのある御三家は、24時間営業は絶対にやめられないんだよ」

さらに、深夜シフトには、季節商品のバナーの貼り付け、雑誌の搬入、掃除といった店の運用に欠かせない重労働が多い。時給を割り増してもなり手が少ない。

「深夜番の人がコンビニを支えているようなもの」。だが、実際にはオーナー自ら深夜シフトに入り、一人で回す「深夜ワンオペ」になるケースも多いという。

業務が複雑になっているのも、人不足に拍車をかける。

「コンビニバイトは、誰でもできる仕事の代名詞みたいに言われるけどさ、今、けっこう難しいよ。コンビニでできること、この10年でめちゃくちゃ増えてるからね。ネット使った宅配便とか、チケットとか、税金の支払いとか。昔みたいに、バーコード通して終わり、っていう仕事じゃないんだ」

新しいサービスが始まるたびに、分厚いマニュアルが届く。アルバイト店員には目を通すヒマもない。たまに来る利用者に混乱して時間が取られる。そしていつの間にかサービスはなくなっている。そしてまた新しいマニュアルが……。

「おれはずっと商売していたし、経営者だから100時間残業してもいいんだけれど、それでも限界はあるよね」

当時は、朝から3件、経営するコンビニを回り、ヘルプに入るともう夕方。それから、また別に経営する仕事の現場へ……そんな毎日を送っていたという。

「店舗増やさないと儲からない」

オーナーの台所事情はどうなのか。

コンビニを開店するのにかかる費用は、およそ3000万円。冷蔵庫や什器、調理器具など設備はすべてリースだ。

一度、フランチャイズ契約を結ぶと、その期間は企業により、10〜15年に及ぶ。土地や建物をオーナーが持っているかなど、契約や会社によっても異なるが、売り上げから仕入れ原価を引いた、粗利の30〜55%程度をロイヤリティとして本部に支払う。そこから人件費・光熱費を支払い、残りがオーナーの利益だ。

廃棄処分になる弁当なども、月に50万円はあらかじめ損失として計上しておくように本部から推奨されるという。そのロスは、店舗が負担する。

Aさんによれば、日商70万円で優良店、50万円で平均越え、30万円が採算分岐点だという。50万円を超え、オーナーが自ら毎日シフトに入っても、月給ベースだと「普通のサラリーマンと変わらないくらい」。2店舗、3店舗と増やして、ようやく事業になる、そういう感覚だという。

「日商50万って大変だよ。客単価500円だとすると、1日に1000人。1時間に100人以上さばく時間帯をいくつか作らないと、そこには乗らない。100人さばこうとすると、店員が3人は欲しいからね。人が足りない。その話に結局戻るんだよ」

「オーナーになるより、貸した方がいい」

それでもなぜ、オーナーになるのか。

「小さい商店はイオンやジャスコに飲み込まれているし、酒屋はもうコンビニに駆逐された。町の本屋もAmazonでなくなりつつある。小さい敷地でお店を続けようと思ったら、コンビニしかない、って考える人は多いと思うよ」

物件を本部に用意してもらう場合だと、自前の物件を持つのに比べ、ロイヤリティは10%近く上がる。

「物件ないのに脱サラしてコンビニオーナーとかは、絶対に勧めないね。土地を持ってないと、厳しいよ。土地があっても、自分でオーナーになるより、貸した方がよっぽど楽なんじゃないかな。もし、今また始めるなら、場所を貸すだけにするな」

イベントに飢えるコンビニ

Aさんの言葉とは裏腹に、コンビニ市場は未だ少しずつ伸びているのも事実だ。それでも、「飽和してる」と感じる実態は、どんなものなのか。

「現場を見ているとわかるのは、お菓子とか弁当とか雑貨とか、普通にモノを売るのはあまり変わってないんだよね。だから、無理矢理、イベントを作って頑張って売り上げを積み増すんだ」

確かに、コンビニは常に「季節」を売っている。ハロウィン、ボジョレー・ヌーボー、クリスマス。年が明ければお正月。恵方巻きにバレンタイン、ひな祭り、ホワイトデー、お花見……。

「バレンタインやクリスマスみたいな定番イベントは、コンビニも苦しいんだよね。うちの店でいうと、全盛期の半分くらいまで落ちていた。だから、新しいイベントに飢えてるんだよ。恵方巻きなんかは、まさにそうだよね。関東にはもともとない習慣だしね。本部からのノルマがきついから、ケンカしたこともあるよ。『たいして根付いてないイベントに、こんなに張れないよ』って」

長期契約に、ロイヤリティ、課せられるノルマ。本部のやり方はひどいと思うか。Aさんに問うと、こう即答した。

「本部が横暴だ、みたいな風には思わないよ。店作るときにはお世話になったし、震災の時には、苦しいオーナーのために保証金を出したりもしてくれた。どちらかというと、人口も経済規模も右肩下がりになる日本で、同じ勢いで仕組みを維持するのは限界があるんじゃない、っていう疑問かな」

Aさん自身は、24時間営業から抜け出せて、よかったと思っている。

Aさんが持つ店舗の中で、かつて稼ぎ頭だった店の収支は今や「トントンの状態」だ。だが、顔は明るい。

「長年、勤めた従業員が店長として働いているんだよ。もうすぐ定年になる歳だし、きちんと働く場所を守ってあげたくてね。それが今、経営者としてできることだから。24時間やってたら、無理だもん」

一通りの質問を終え、しばしの沈黙が流れた。Aさんは顔をあげ、「いやあ…」と声を漏らすと、こう続けた。

「コンビニってさ、日本の縮図だよ。良くも悪くもね。データ分析を突き詰めるハイテクなところも、サービスがとにかくきめ細かいところも、少子高齢化で働く人が足りないところも……」