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「好きな服を選ぶ権利」を求める運動がSNSで拡散。始めたのはひとりの女性だった。

イランで人権派として知られる弁護士の1人は、政府に対し、「女性が自分の体に関わることを自分で決め、好きな服を選ぶ権利を認めるべきだ」と述べた。この動きはソーシャルメディアを通して広まっている。

2017年12月、イランの首都テヘランで、1人のイラン人女性が、スカーフ着用を義務づける政府の規則に公然と反対する運動をした。2018年1月末には、その行動に感化された少なくとも12人の女性が公の場でベールを脱ぎ、イラン国内およびソーシャルメディアで波紋を呼んでいる。

女性の名前はヴィダ・モヴァヘドとされている。彼女の写真は12月27日にテヘラン中心部で撮影されたものだが、奇しくも、翌28日に東部の町マシュハドで始まり、イラン全土の町や市で1週間吹き荒れた反政府運動の象徴として使われた。

モヴァヘドは、「エンゲラブ通りの女性」としてイランで有名になった。エンゲラブ通りは、首都テヘランにある大通りで、テヘラン大学がこれに面している。ソーシャルメディアのいくつかのアカウントで、「31歳で小さな子どもがいる」と説明されている彼女は、テヘランの人権派弁護士たちによると、一旦拘束されたあと釈放され、また拘束されたが1月27日に釈放されたという。

1月29日と30日には、モヴァヘドを真似るたくさんの女性たちの写真や動画がネットに出回った。彼女たちは、テヘラン市内の道路脇や道端の台の上に立ち、頭に何もかぶらず、1979年のイラン革命以来女性に課せられてきた規則に公然と反抗を示した。連帯を表すためか、同じ行動を取る男性も何人かいた。

イラン各地で起こっている女性の問題に詳しいテヘランの社会科学者は、「この動きは少なくとも、12月末の反政府デモと同じくらい重要だ。あるいはそれより重要だと言っていいだろう」と語る。彼女は、国際的なメディアと接触することで当局のターゲットになることを恐れ、匿名という条件で話をしてくれた。

「ヒジャブをかぶる決まりに従わない女性はもっとたくさんいる。特に車の中や、ときには往来でも。(反体制派の)リーダーシップがなければ、人々は個別に行動するが、ほかの人たちに支持されたとき、国中に広がっていく。女性たちのこの不服従の運動は、非常に重大なものになるだろう」

イランの有名な人権派弁護士の1人であり、女性弁護士でもあるナスリン・ソトウデはBuzzFeed Newsに、イラン当局の反応にかかわらず、この運動は続いていくだろうと語った。「イランの女性たちは、軽蔑や侮辱や脅しに、長いことうんざりしてきた。政府がどういう行動に出るかは予測できないが、私は、女性が自分の体に関わることを自分で決め、好きな服を選ぶ権利を認めるよう、政府に助言する」

社会や美的価値やテクノロジーが急速に変化していく中で、イランのイスラム教的特徴の最たる象徴が、スカーフ着用の義務だ。この決まりは40年近く前、イスラム教シーア派の指導者ホメイニ氏とその信奉者たちが政権を取ったあと、無理やり課せられたものだ。イランの女性たち、特に都市部の女性たちは、以前からこの決まりに抵抗し、スカーフの端をどんどん後ろへずらして当局に逆らってきた。

近年は地域警察が風紀取り締まりを担っており、「ヒジャブのかぶり方が悪い」と言っては、道行く女性たちを頻繁に呼び止め、罰金を科したり嫌がらせをしたり、牢に入れたりしている。その理由は曖昧で、足首や前腕を見せすぎるとか、化粧が濃すぎるとか、あるいは単に、体制支持派で都会に出てきたばかりの激しやすい若者に目をつけられただけという場合もある。

ニューヨークに住むイラン人ジャーナリストでコメンテーターのオミッド・メメリアンは、「この抗議行動で思い出すのは、ヒジャブは革命直後に多くのイラン女性に強制されたものということだ」と述べる。「彼女たちが自分から始めたことではない」

男性たちもときどき、髪型や服装が西洋風だとか変わっているなどとみなされて、嫌がらせを受けることがある。

イラン政権の穏健派は12月、この件をめぐって増大する民衆の怒りを和らげようと、テヘランでの取り締まりを緩和するよう命じた。しかし、厳しすぎる取り締まりは今も続いている。強硬派と争ったことのある穏健派ハサン・ロウハニ大統領は1月8日の演説で、白ひげの聖職者たちおよびその強硬派の軍隊や風紀警察が支配する体制側と、イランの若者の間には、意見の相違があることを認めた。

「若者たちを見て、彼らの声を聴き、彼らの要求に応えるべきだと人々が言うのはもっともなことだ」とロウハニ大統領は語った。「現在、若者たちの世界や人生に対する見方は、われわれの見方と違っている」

イランの規則を無視するには危険が伴う。体制側は、反対意見を匂わせるどんな動きにも敏感に反応し、すぐさま厳しく取り締まることが多い。現体制に対して陰謀を企てる、外国か国内の反対勢力にされてしまうのだ。イラン情勢の専門家の中には、今回の反抗的な行動は、国内政策を和らげようとするロウハニ大統領に対する反撃材料を、強硬派に与えるかもしれないと懸念する者もいる。もっともロウハニ大統領は、社会的混乱を利用するのがうまいようだ。今回の全国的な抗議行動でさえ自分の目的に利用し、体制を牛耳る者たちに向かって、民意に従うのを拒めば、共和国の終わりにつながりかねないと主張したのだ。

女性たちが単独で行う反抗的行動は、治安に対する巧みな挑戦でもある。前述したジャーナリストのメメリアンは、「とても自然で申し分ない、草の根モデルの『市民的不服従』だ。そのため、強硬派による鎮圧は非常に難しくなるだろう」と語る。

汚職疑惑と経済的苦境に対する抗議として1月初めに国中に広まったデモに恐れをなしたイラン当局は、民衆の怒りをさらに刺激することを心配し、取り締まりには慎重になっている。前述のテヘランの社会科学者は、「彼らはもはや、今何をすべきかわからないのだ。汚職は広まり、人々の怒りは彼らの無能と不始末に向けられているのだから」と述べる。「今この国では、どんなことも危機になりうる」

2月1日の時点で、イラン警察は対策を取った。彼らは、スカーフを脱いだ「惑わされた女性」29人を逮捕したと発表した。

イラン人の中には、「今回の抗議行動は変化をもたらすか、少なくとも、微妙な問題について話し合いをしなければならなくなるだろう」と、慎重ながらも楽観的な意見を持つ人もいた。アメリカの映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ疑惑が、欧米で「#MeToo運動」を引き起こしたのと同じようにだ。「こうした個人行動が、効果をもたらすことができるのは明らかだ」。イランの大手新聞社に勤める29歳のジャーナリスト、ザーラはそう語る。

イランの女性たちは、1979年3月8日にスカーフ着用を強制されて以来、ずっとその規則に憤りを感じてきた。テヘランを拠点とする活動家ミリアム・アブディはBuzzFeed Newsのインタビューで、「イスラム教の強硬派の中にさえ、『ヒジャブを強制する政策は、40年の年月を経て失敗に終わった』と考える人たちがいる」と答えた。「政府は数人を逮捕するかもしれないが、結局大したことはできない。着るものを選ぶ権利は、人間として重要な権利だ。そしてイランの女性たちは、その権利を奪われている」

一方で、イラン国内に住むイラン人の多くは、この問題が海外でこれほど多くの注目を浴びていることに驚いている。チャットアプリ「Telegram」のペルシャ語版チャンネルを検索すると、こうした女性たちについては、イラン国内よりむしろ海外にいる報道機関や移住者の間で、より多く取り上げられていることがわかった。こうしたマスコミの盛り上がり方から、西側諸国がイスラム教徒の女性の服装にばかりこだわっていることがわかる、と説明する人もいる。イラン国内では、物価高や低賃金、汚職、そしてもっと広い意味での自由の欠如に対して、もっと多くの普遍的な懸念があるのにもかかわらずだ。

言論の自由を訴える団体「ARTICLE 19」のインターネット・スペシャリストで、オックスフォード大学インターネット研究所博士課程に通うマーサ・アリマルダニは、「部分的には、西欧社会が、イランの女性たちや彼女たちの服装に注目していることの現れだ」と述べる。

「だがこの運動は、イランの女性たちが、イランの外の人々に向かって非常に意識的に行っていることだとも思っている。こうした女性たちは、自分の写真が撮られてネットでシェアされるまでやり続けることもたびたびある。しかしこの行動が、国中で不正と汚職に対し反対の声を上げた、より広域な国全体の抗議行動と同時に起こった、という事実は無視できるものではない」

この記事は英語から翻訳されました。翻訳:浅野美抄子/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan


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