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女性はモヤモヤだけでやめていく。両立支援を間違える会社はここがズレている

両立支援・堀江敦子さんと働き方改革・白河桃子さんの対談。【前編】では、女性と企業の意識のミスマッチについて考えます。

もしも出産したら、子育てしながら働き続けたいという女性は、約9割もいる。それなのに、約半数は転職や退職を考え、約半数は妊娠や出産を遅らせようとしている。その理由はーー「両立不安」。

働く女性に意識調査をし、7月29日に「両立不安白書」をリリースしたのは、ワークとライフの実現を目指す事業を展開する会社「スリール」だ。仕事や育児の実態を知りたい大学生が、共働き家庭にインターンをするプログラムなどを提供している。社長の堀江敦子さんは「女性の両立不安に、企業の施策がマッチしていない」と指摘する。

政府の「働き方改革実現会議」などの委員を務め、『御社の働き方改革、ここが間違ってます!』などの著書があるジャーナリストの白河桃子さんとともに、女性と企業の意識のズレを突き詰めてもらった。


両立する前から「無理かも」

堀江 調査に回答してくれた23〜47歳の女性498人のうち、働いていて子どもがいない女性347人を分析したところ、92.7%が仕事と子育ての「両立不安」を抱えていました。

「両立不安」を抱えている人の特徴は「仕事も子育てもしっかりやりたい」。仕事は充実しているという人が80.3%、求められれば管理職を経験したいという人が66.5%いました。一方、家事や育児について聞くと「自分がメインでやることになる」と思っている人が82.4%いました。

仕事で成果を出すためには「時間」をかける必要がある、と答えた人も、子育てには「時間」をかける必要がある、と答えた人も、ともに高い割合でした。つまり、仕事も家事も育児も全部やらなければいけないのに自分には24時間しかない、と考えて行き詰まります。

繰り返しになりますが、彼女たちは実際に両立していて困っているわけではなく、両立に直面する前に、すでに不安を抱えてしまっているのです。

いまは彼氏がいない状態であっても「この仕事を受けたら子どもが産めなくなるかも」「失敗したらどうしよう」「周りに迷惑をかけたら申し訳ない」......。

彼女たちが見ているのは、社内のワーキングマザーの先輩か、メディアに踊る完璧なワーママ像。バタバタかキラキラのどちらかなんです。ああはなりたくないから、こうしなきゃ。でも、朝4時起きのスーパーウーマンにはなれないし、そこまでは無理......そんなモヤモヤに支配されて、誰にも相談せずにあきらめてしまいます。

白河 本当にもったいないですね。

堀江 両立不安の背景にあるのは「こうしなきゃいけない」という固定観念です。働き方の固定観念子育ての固定観念性別役割分担の固定観念。日本にはこの3つの固定観念すべてがあります。仕事は長時間がんばらなきゃいけない、いい親にならなきゃいけない、いい妻にならなきゃいけない。女性たちが自分を追い込んでしまうだけでなく、無意識のうちに周囲が思い込みをつくりあげていることも、忘れてはいけません。

こういった固定観念が「仕事も頑張りたい」という想いをもっている人たちの活躍の幅を狭めているのは、企業にとってもったいない状況です。固定観念が存在することを認識したうえでの施策をしなければ、不安は解消されません。「女性活躍」は女性だけの問題ではないのだとわかってほしいですね。

白河 日本では、子どもを産んで育てる女性と仕事で活躍する女性が同一人物だと理解されていない面がありますよね。仕事をするのであれば仕事が一番でなければならない、子育てをするのであれば仕事では一人前だとはみなさない。二者択一を迫られ、それはできないと言うと「意識が低い」と言われます。「意識が低い」......いやな言葉です。

堀江 この「意識が低い」が、女性と企業の意識のミスマッチを象徴しています。今回の調査では約9割の女性が「子育てしながら働き続けたい」と思っていました。企業も女性に働き続けてほしいから、制度を整えたり配慮をしたり、さまざまな施策をしています。向いている方向は同じはずなのに、結果は「両立不安」によって約5割の女性が転職や退職を考えるという。

白河 それは「女性に優しい会社」を目指してきたツケだと私は思っています。日本の企業は「男性視点」で女性に優しくしすぎた。そのことが逆に今、女性が働き続けるうえで足を引っ張っているとも考えられます。

「女性に優しい会社」の限界

白河 ここ数年で、日本人の働き方の転換点となる出来事が3つありました。「資生堂ショック」「電通ショック(※1)」「ヤマト運輸ショック(※2)」です。

注目したいのは、2014年に話題になった「資生堂ショック」です。

資生堂は、社員の約8割が女性です。その多くを占める美容部員の働き方をめぐっては、短時間勤務などの手厚い制度をもうけて両立支援をしてきました。夕方以降や休日は、子どものいない社員がシフトに入るのです。

こうした制度の恩恵を受ける子育て中の社員が増えるほど、子どものいない社員の負担が増してきました。そこで資生堂は、子育て中の社員もできる範囲で夕方や休日のシフトに入るよう求めることにしました。

女性に優しい会社だったはずなのに厳しいじゃないか、と誤解され、衝撃が走りました。しかし、この「資生堂ショック」は再評価するべきです。これにより、子育て中の女性を多く雇う会社だけが制度を充実させても限界を迎えるということが浮き彫りになりました。

(※1)「電通ショック」=新入社員の過労自殺により、労働基準法違反で書類送検、経営者の辞任につながった。長時間労働を是正する意識が経済界に広がった。

(※2)「ヤマト運輸ショック」=「お客様は神様」の価値観のもと違法な未払い残業や過重労働を容認してきたが、批判と人手不足によって経営戦略を転換した。

堀江 資生堂はそれまで「子育てしながら働く」のではなく、配慮して「単純に休ませる」制度だったんですよね。でも、会社が「もっと働いてほしい」「サポートするので活躍してほしい」というメッセージを出したことで、気持ちが安らいだという人が多かったといいます。「厳しく働け」と言うことが正解なのではなく、期待を伝えながら、現在の仕組みにとらわれず柔軟に、子育てしながら働き続ける体制を考えることが重要です。

白河 育児休業などの制度が整ったのがおよそ10年前。この「女性に優しすぎた10年」があったから、女性たちは「両立支援制度はある」という前提で働いています。もちろん育休や時短勤務の制度さえなかった時代に比べると前進なのですが、「活躍支援制度」は足りていません。「育休はとるけれど、時短はとるけれど、私は働きたい、活躍したい」と希望する人はいます。けれど「両立」のコースにのったら、もう「配慮」の名目のもとに、希望を封じられてしまうのです。

堀江 そこがまさに、ボタンのかけ違いを感じるところです。制度を整え、配慮もしているのに......という企業が、復職後の社員に期待を伝えていなかったり、重要な会議を夜に設定していたり、責任ある仕事は時間制約のない社員が請け負う体制にしていたり。配慮の仕方が違っているか、配慮が行き過ぎているケースがあるのです。

女性のほうも、変に「忖度(そんたく)」していたりするんですよね。復職しているという時点で仕事をしたいという意思は当然伝わっているはずだ、思っている。「活躍したい」と口に出すのを遠慮して「サポートしてほしい」とだけ言うから、上司は「意識が低い」と捉えてマミートラック(※3)に乗せるんです。

(※3)マミートラック=仕事と育児の両立はしやすいが、昇進や昇格が見込めないキャリアコース

白河 女性だから育児をしやすいように早く帰してあげよう、ではなく、本来は男性や独身者にもライフはあるのです。最初から、男性の働き方にもメスを入れるような改革、つまり企業全体での長時間労働の改善をしておけば、10年もの間、女性だけに優しくする必要はなかったんです。

資生堂は女性が8割の職場なので、最初に限界がきて「炭鉱のカナリア」となったわけです。これからは働き盛りの男性が介護をすることになったり、定年が延長されて高齢者雇用が当たり前になったりと、「わけあり」「時間制約あり」の社員がどんどん増えていきます。どの企業も資生堂と同じ問題に直面することになるので、まだ女性だけの問題である段階、人数が少ない段階で対処しておかないと。

日本の会社では滅私奉公が求められますが、限りある個人の時間というリソースを企業が強制的に全部搾取することが、そもそもおかしいのです。働き方改革で残業時間の上限規制ができることには、大きな意義があると思っています。

堀江 金太郎飴のように、同じように働いて同じような成果を上げる時代は終わりました。社員それぞれに状況や考え方、時間の使い方が違うことが、これからは仕事に活きてきます。「こうしなきゃいけない」というのは実はどこにもない。女性自身の中にもなくていいのだと気づくことで、「両立不安」は少しずつ解消していけるはずです。


白河桃子さんと堀江敦子さんの対談の【後編】では、働き方改革を進めるうえでの生産性、評価など、リアルなマネジメントについて考えます。

自分の市場価値を知っていますか? 早く帰るのは実はとても厳しいことだった