結婚といえば愚痴や不幸な話ばかり?
「子育てって大変なのよ〜って言いたい人がいるんです」
「『ほんと、夫片付けたい〜』みたいに言っている人すごく多くないですか」
タレントのりゅうちぇるさんは、BuzzFeed Japanの番組「もくもくニュース」で、結婚や育児についてネガティブな情報ばかりが先行していることを指摘した。
「大変な話ってすぐ回るけど、こんなに自分の子どもがかわいいという話は広まらないんですよ」
確かに。みんな本音のところはどうなんだろう。
BuzzFeed Newsが1月にアンケートを実施したところ、結婚してからパートナーへの愛情が深まったという人は68.8%いた。
愚痴や不満をいろいろ言ってはいるけれど、そこそこ結婚に満足している人って実は多いのでは......?
ではなぜ、結婚や育児について、本音とは違うメッセージが語られてしまうのか。
BuzzFeed Newsは、『#シェアしたがる心理』の著書がある電通メディアイノベーションラボ主任研究員の天野彬さんに聞いた。
自虐や不幸自慢をする理由
天野さんによると、日本的な謙遜の文化から、リアルなコミュニケーションでは「自虐」や「不幸自慢」が珍しくない。特に20代から30代は仕事、結婚、出産、育児におけるライフステージが多様になる年代のため、相手の事情に合わせようとしたり気を使ったりしがちだという。
例えば5人で集まったとき、3人は子育て真っ最中、2人は仕事バリバリの独身だとすると、共通のエピソードや話題が見つかりにくい。相手に配慮するあまり、互いに謙遜ばかりになるのはよくある光景だ。
「対面だと特に、儀礼的に相手に合わせがちになるのかもしれません」
一方で、SNSでのコミュニケーションの変化が、リアルな場にも影響し始めている、と天野さんは分析する。
「物心ついたときからSNSやインターネットに慣れ親しんできた人たちがライフステージの転機を迎える年代になってきて、喜ばしい報告をどのようにするかで新しいコミュニケーションの形が生まれています。今がちょうど過渡期なんです」
2000年代はインターネットユーザーはまだ少数で、リアルとオンラインのコミュニティは必ずしも一致していなかった。2010年代になってSNSの利用率が急増し、分散していたユーザーが人気のサービスに集中したことにより、リアルな友達同士がオンラインでもフォローし合うのが当たり前になってきた。リアルとオンラインのコミュニケーションがつながりを持ったのだ。
「友達に気を使わないと、と思う一方で、SNSではもっとオープンにポジティブな情報をシェアしたいという気持ちのせめぎ合いが起きています」
「リアル」はどこにあるのか
実際に付き合いのある友達、Facebookの友達、Instagramの友達、Twitterの友達ーーそれぞれがまったく別ではなくなってきている。誰がいつどのSNSから自分の投稿を見ているのかも把握しきれなくなっている状態で、SNSではどのように振る舞えばいいのか。本音はどこで発信するのがいいのだろうか。
天野さんは、InstagramのStories(ストーリー)と「別アカ」がいま、その役割を担っているという。
ストーリーは、画像や動画を投稿したら24時間で消えることと、見た人の「足跡」がつくことが特徴の機能。
「インスタのキラキラ圧力に嫌気がさした人たちが、ストーリーに移行しつつあります。通常の投稿では盛れた画像を上げてキラキラな印象だけれど、どんどん消えていくストーリーのほうでは、ちょっとした本音を書いている人がいます」
「ググる」から「#タグる」へ
「別アカ」は、ふだん使っているインスタのアカウントとは別のアカウントを作ること。別アカにはある特定の分野での情報収集・情報発信の役割をもたせ、その分野に関心のある人とのみ、ハッシュタグでつながるのだ。
例えば、結婚準備中の女性たちによる「#プレ花嫁」や、結婚式を終えた「#卒花」、乳幼児の親らによる「#親バカ部」や、子どもの月齢や生まれた年月を使ったタグなど。
本アカでは気を使ってできないような話を、別アカでハッシュタグでつながったコミュニティで話して情報交換する。天野さんは、情報収集や情報拡散の方法が「ググる」から「#タグる」へと変わってきていると分析する。
「僕の友人にも、結婚はFacebookで報告し、子どもを授かったときはインスタに投稿し、子育て中は同じ月齢の子どもがいるアカウントとつながって情報収集しているという人がいます。ライフステージの変化とともにSNSの使い方も変わっていくし、使うサービスも変わっていくということなんでしょう」
SNSマウンティング疲れ
10代のインスタユーザーの間では、おしゃれなカフェで2人分のドリンクを並べて写真を撮り、彼氏ができたことを書かなくても匂わせるような「ほのめかし」の投稿が多くみられるという。
「あからさまに『彼氏です!』とアピールする投稿に比べれば、ほのめかしは奥ゆかしさや余裕のようなものを醸し出す、オープンとクローズドがミックスされたコミュニケーションです。日本的な謙遜の価値観とネット上のコミュニケーションのあり方の定着という変革の過渡期だからこそ生まれた現象かもしれません。ただ、若い世代はそんな方法でマウンティングをするよりも、カラッとあからさまにシェアしたほうがお互いに気持ちがいいよね、という方向に移ってきています」
「りゅうちぇるさんのように、愛や幸せについてオープンに話す人に共感が集まり、そういうポジティブなコミュニケーションをもっとしていいんだという雰囲気が醸成されつつあるからです」
匿名で自由な発言空間だったインターネットが、実名のリアルな場とつながることによる息苦しさもまたある、と天野さん。
「人間の心理とツールは、互いに影響を及ぼしあうような関係があります。こういう考え方だからこのツールを使うというのもあれば、ツールの特性によって考え方が変わるということもある。発信の仕方が多様になれば、その受け止め方にも少しずつ変化が起こっていくでしょう」
【ゲスト】りゅうちぇる(タレント)、川崎貴子(コンサルティング会社社長)
【MC】ハヤカワ五味(経営者)、大島由香里(フリーアナウンサー)
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