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報道現場で #MeToo をからかう上司。調査からみえた「セクハラ再生産」の現実

「必要なのは、道徳教育ではなく人権教育です」

財務省の前事務次官によるセクハラ発言をきっかけに、メディアで働く人たちが受けているハラスメントの実態が次々と明らかになっている。

女性ジャーナリストたち約90人によるネットワークが発足し、5月15日に記者会見。「自分たちこそが声なき声の当事者だった」として、19人の意見や体験談を発表した。

5月17日には、性暴力の被害者と報道関係者で作る「性暴力と報道対話の会」がセクハラ被害の実態を調べたアンケート調査結果を発表した。被害を受けたことがある102人の女性のうち、10回以上の被害だという人が半数を占めていた。

そして5月21日、任意団体「メディアにおけるセクハラを考える会」が、150件のアンケート調査結果を発表した。

20代の被害が過半数

「メディアにおけるセクハラを考える会」は、財務省のセクハラ問題を機に、メディア業界でのセクハラの実態を調査・分析するために設立。メンバーには現役の女性記者たちも含まれている。

4月下旬、実際に受けたり身近で起きたりしたセクハラ被害の事例提供を、Facebookを通してメディア関係者に呼びかけたところ、すべて女性から150件の事例が集まった。本人からの申告は126件で、情報提供は24件あった。

被害に遭った年齢は、20代が51%、30代が16%、40代が4%、不明が29%で、若いほうが被害に遭いやすい傾向がみられた。また、若手記者が配属される地方支局での被害が多かった。

加害した側の職業を聞いたところ、社内40%、警察・検察関係者12%、政治関係者11%、官僚などの公務員8%。同業他社の記者などその他の社外関係者が29%だった。

つまり、社内関係者からのセクハラが4割、取材における権力関係者からのセクハラが3割あったということだ。

これには二次被害も含まれており、特に社内の場合は、被害を受けたことを上司や先輩に相談しても、「お前と取材対象とどちらが大事だと思っているのか」と言われて声がかき消されることが、いくつもの事例でみられたという。

また、加害者のうち女性も3%(5件)おり、女性上司や女性の先輩から「それくらい我慢しなさい」と言われたというケースもあった。

社内でのセクハラの事例にはこのようなものもあった(抜粋)。

「面倒をみてやる」という先輩に教わっていたら、食事の誘いがくるようになり、自宅に手紙がくるようになった。

新人として赴任地での初日の歓迎会で、上司から「彼氏はいるのか」「最後にどういうセックスをしたのか」などと執拗に聞かれた。その職場に女性の先輩は1人もおらず、ここで答えなければ「やっぱり女性は使えない」と思われるのではないかと思った。

会の代表である谷口真由美・大阪国際大准教授(国際人権法、ジェンダー法)は、社内での被害についてこのように分析している。

「メディアは公器であり社会の鏡であると言われていますが、社内でセクハラをされているとなると、訴えようにもまず社内で理解してもらえません」

「#MeToo の報道をしようとしたら上司に止められる、という例もたくさん聞きました。組織に属している女性ですらこうなら、フリーランスや契約の女性たちはもっとひどいのではないかと推察されます」

「なぜ行くのか」と言われる二次被害

被害に遭った場所は、飲食店(カラオケ、バーを含む)が25%と多く、次に職場14%、取材現場11%、出張先5%、タクシーや相手の車中5%、自宅・相手宅3%、ホテル1%、その他6%、不明30%。

取材をめぐるセクハラでは、こんな事例が寄せられた。

地方支局で自治体選挙を担当していた。ある陣営の選対幹部から「票読みについて話すから、ご飯に行こう」と言われた。車でその男性のあとをついていったら、山の中。車からその男性がいきなり出てきて私の車に乗り込み、胸を直に触り、キスしてきた。

谷口さんは指摘する。

「誤解と偏見を招いているが、厚生労働省のガイドラインは、『職場』を労働者が業務を遂行する場所を含むと定義しています。取引先の事務所や顧客の自宅、打ち合わせのための飲食店も『職場』であり、『なぜそんなところに行ったのか』と聞くのは二次被害を与えかねないということです」

財務省のセクハラ報道が精神的な負担になっている記者や、「自分の経験は思い出すのもつらく、苦しい」と調査に書いた記者も多かったという。それでもなぜ、調査にこれだけ協力が集まったのか。谷口さんは「記者たちは、もう自分で終わりにしたい、という強い気持ちがあります」と言う。

「これはSisterhood(女性同士の連帯)であり、#MeToo の流れと同じです。男性上司や同僚から『こんなことを言ったらセクハラだと言われる』などと嘲笑されたり、セクハラに関する報道をしたいと訴えても黙殺されたりして、なんとかして届けたいということで集まった声でした」

「メディア関係者の中にも、女を武器にしてネタを取ってきたのに今さら被害者ぶるのか、という声もあります。女を武器にしている人がいないとは言いません。ただし、それを理由に、多くの女性たちが苦しんでいる状況を放置することは、被害者がせっかくあげた声を殺してしまうことになります」

必要なのは道徳教育ではなく人権教育

外国人記者からは、アメリカの#MeToo ムーブメントは実名による告発が多いが、なぜ実名告発ではないのかという質問もあった。

その理由の一つとして、谷口さんは、財務事務次官によるセクハラを告発したテレビ局の女性記者がバッシングされたことを説明。「声をあげるとこれだけ怖い思いをするのだと疑似体験した女性が多かったと認識しています」と話した。

「だからこそ、私のような第三者が声を集めることで、エンカレッジ、エンパワメントする状況を作り出さなければならない。実名でなくても、匿名の集合値を集めることで、傾向を分析したり、社内研修に使ってもらったりすることが可能になります」

さらに、セクハラや#MeToo について嘲笑したりからかったりする動きもある、と問題視。政府が5月18日、「現行法令において『セクハラ罪』という罪は存在しない」とする答弁書を閣議決定したことについて「非常にバカバカしいけれど、それがいかにバカバカしいことか、丁寧に伝えなければならない」と話した。

「日本社会に必要なのは、道徳教育ではなく人権教育です。権力側にある人さえ、自分にどんな人権があるのかを認識していないからこそ、他人の人権の配慮に欠如した対応をしてしまう。学校、社会、組織あらゆる角度から、日本にとって必要なのは人権教育だと思っています」

現状については、このように述べた。

「報道の現場は、声をあげられなかった『今まで』と、あげられるようになった『これから』の分水嶺にあります。メディアの中から声をあげられるようになることが、一般的にもセクハラについて声をあげられるようになる社会の一歩になるはずです」

BuzzFeed Japanではメディアで働く女性のセクハラの実態について、半数が「10回以上セクハラを経験」 調査が示したメディア業界の実態にもまとめています。

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