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「育休退園」で詰む親たち 2人目が産めない、働けない

少ない定員枠の奪い合い

育児休業をとると保育園は退園? 妻が行政から「女は働くな」と言われました

インターネット上で、こんなブログの投稿が話題になっている。

筆者のブログにはこの投稿1本だけしかないが、2人の子どもの父親が書いたとみられる。もうすぐ3歳になる第1子は、今年4月から「市内の保育園」に預けている。3週間前に第2子が生まれたばかりで、妻は産休中のようだ。

ブログでは、ことの始まりを次のように記している。

市役所から突然電話がきた。
「現在、市内の保育園に通われているお子さまですが、現在産休中のお母さまがこのまま育児休業に入り職場に復帰しないということですと、今年の11月11日で退園して頂きますので、その確認のお電話です。」
という内容。
そんな話は事前に説明されたこともないし容認するどころか意味が分からない。

この記述からして、昨年、問題になった「育休退園」と同様の状況とみられる。

下の子の育休に入ると、上の子は退園しなければならない

保育園に子どもを預けて働いている親でも、下の子が生まれて育児休業を取るのであれば、その期間は親が面倒をみられるという考え方のもと、上の子は保育園を退園するというルールが「育休退園」だ。

昨年、埼玉県所沢市の保護者らが、「育休退園」の運用の差し止めを求めて市を提訴。その後、再入園が叶うなどして全員が訴えを取り下げたが、「育休退園」の制度は続いている

「家庭での保育が可能な子に一旦退園していただくことで、現に就労等により保育が必要で入園を待っている子が入園できるようになります」(所沢市の平成29年度 入園のしおり)

保育園に子どもを預けることができないがために、働けない人たちがいる。公平性を考慮した結果、「育休退園」の制度をもうける自治体がある。一方で、静岡市、熊本市など「育休退園」を廃止する動きもある。

「育休退園」の何が問題なのか

いったん上の子が退園すると、いざ復職するときにまた預け先を探さなければならない。前述のブログには、こう書かれている。

退園したあと次年度にまた同じ保育園に入所できる保証もない。
それどころか年齢枠を考えると地域内の保育園そのものに入所できる可能性は低い。
ましてや市内の待機児童の数を考えれば姉弟ふたりが同じ保育園に同時に入所できる可能性が絶望的なことは誰でも分かる。

退園したくなければ復職を

「それならば産休後に育休を取らずにすぐに仕事復帰すれば強制退園させられないのか?」
と聞くと、
「その通りです。退園を免れるにはそれ以外の方法はありません。」
というわけである。

ブログの筆者は、市がいう「期限」である産休明けの時点で妻が職場復帰することについて、産後2カ月で体調が心配なこと、今年度中は育休の代替要員がいること、そもそも年度途中に生後わずか2カ月の下の子の預け先が見つかるはずがないことをあげ、こう嘆いている。

預けるところがないのに職場に復帰をしろ。
復帰できないならば上の子は保育園を退園して家でみろ。

…基本的に選択肢がない。
仕事をやめて保育園もやめるしかない。
なんだこりゃ?
これはいったいどういう「一億総活躍社会」なのか説明してくれ総理大臣。

大袈裟なタイトルかもしれないが、
これでは「女は働くな」と行政から正式に言われているのとなんら変わらないのである。

筆者は匿名だが、東京都国分寺市に住んでいると書いてある。BuzzFeed Newsは、国分寺市子ども子育てサービス課の入園相談担当に取材した。

「育休退園」をめぐって、市の対応を批判するブログがありますが

「このブログを書いた方かどうかはわかりませんが、このような事例があることは事実です」

「もともと保育園は、子どもを預けなければ働けない人のための施設だと認識しています」

「育休退園」について説明は十分にしているのでしょうか

「保育園の入所案内に明記していますし、利用決定通知(保育園が内定したときに保護者に送られる文書)にも書いてあります」

自治体が「育休退園」のルールを設けると、結局、「保育園にまだ子どもを預けられていない人」と「預けているが退園させられる人」による、定員枠の奪い合いの構図になってしまう。

厚生労働省が導入の方針を固めた「入園予約制」も、「年度初めに預けられない人」のために年度途中の入園予約枠を確保する制度だ。しかし、ただでさえ足りていない定員枠を空けたままにしておけるのか、と賛否がある。

そもそも「育休退園」も「入園予約制」も、育児休業を取ることができる会社員を対象にした制度。「正社員」「非正規」「自営業」「求職中」といった、雇用形態による「預けやすさヒエラルキー」ができてしまっている。

保育園を必要としている親たちが、「保活」という情報戦を繰り広げ、他人を蹴落とさなければならないほど、保育園や保育士が足りていない。その実情が最も問題なのに、自治体は少ない定員枠をどう融通するかのルールをつくる。親たちはそのルールに自分の状況をあてはめて、有利だ不利だと一喜一憂するしかないのだ。

ブログの筆者は、こうも書いている。

今回の件にはさまざまな賛否があるだろうと思う。
逆の立場である他の子が今回のうちのケースのように中途退園をさせられ、その玉突きでうちの子の中途入所できてめでたく職場復帰できることになったのだとしたらきっととてもありがたく思っただろうし喜んだと思う。
対岸の火事のようなもの。
その子がかわいそうであってもそんなルールは容認できるはすがないと陳述書を書くことなどまずない。
そう考えると結局は俺は自分がかわいい醜い考え方の人間のひとりなんだなと悲しくもなった。

2016年4月時点の待機児童数は、全国で2万3553人だった。来年4月の入園に向けた2017年度の申し込みは、すでに始まっている自治体もある。