園庭=公園? 「贅沢は言えない」都会の保育園事情

    認可保育園の約2割が園庭なし

    東京都心のオフィスビル1階にある認可保育園。ここに長女(4)を預けるために見学した女性が園庭の場所を尋ねたところ、保育園から約400メートル離れた公園だ、という。子どもの足だと徒歩10分はかかる。

    女性は5つの認可保育園を見学したが、いずれも敷地内に園庭はなく、近くの公園が園庭の代わりになっていた。

    保育園の施設概要には「園庭:公園」とある。

    国の基準を満たす認可保育園には、園庭の設置が義務づけられている。ただ、近隣の公園などを代替地としてもよいことになっている。

    児童福祉施設の設備及び運営に関する基準

    第五章 保育所

    第三十二条  保育所の設備の基準は、次のとおりとする。

     満二歳以上の幼児を入所させる保育所には、保育室又は遊戯室、屋外遊戯場(保育所の付近にある屋外遊戯場に代わるべき場所を含む。次号において同じ。)、調理室及び便所を設けること。

     保育室又は遊戯室の面積は、前号の幼児一人につき一・九八平方メートル以上、屋外遊戯場の面積は、前号の幼児一人につき三・三平方メートル以上であること。

    この基準に沿って自治体は条例をつくり、保育園を認可している。

    2011年3月、厚生労働省は「保育需要がさらに高まってきており、地域の実情に応じつつ保育サービス量の拡大のために一層の取り組みを進める必要がある」などとして、園庭の代替地となる公園について、さらに細かい「留意事項」を自治体に通知した。

    待機児童解消に向けた児童福祉施設最低基準に係る留意事項等について

    屋外遊技場について
     

    (前略)土地の確保が困難で保育所と同一敷地内に屋外遊技場を設けることが困難な都市部等において、屋外遊技場に代わるべき場所に求められる条件は、次のとおりであり、合理的な理由なくこれら以外の条件を課すことによって保育所の整備が滞らないよう配慮されたい。

    (1)当該公園、広場、寺社境内等については、必要な面積があり、屋外活動に当たって安全が確保され、かつ、保育所からの距離が日常的に幼児が使用できる程度で、移動に当たって安全が確保されていれば、必ずしも保育所と隣接する必要はないこと。

    (2)当該公園、広場、寺社境内等については、保育所関係者が所有権、地上権、賃借権等の権限を有するまでの必要はなく、所有権等を有する者が地方公共団体又は公共的団体の他、地域の実情に応じて信用力の高い主体等保育所による安定的かつ継続的な使用が確保されると認められる主体であれば足りること。

    土地確保が難しくても保育園を整備できるように、子どもたちが日常的に通える安全な場所であれば、隣接した公園でなくても「園庭」にしていい、ということを確認する内容だ。

    園庭保有率に地域格差

    「保育園を考える親の会」は8〜9月、都心通勤圏にある主要都市と全国の政令指定都市の計100都市に、保育に関する調査を実施した。

    認可保育園の敷地内に園庭がある割合(園庭保有率)を調べたところ、東京都文京区20.4%、港区25.0%、中央区29.3%がワースト3だった。地域格差が大きく、神戸市や岡山市など100%の自治体がある一方で、東京都心部は低めの傾向があった。

    東京23区の園庭保有率

    園庭がない保育園がたくさんある地域では、一つの公園に複数の保育園から園児たちが「殺到」するため、散歩の時間をずらすなどして調整しているのが実情だ。

    前出の女性は言う。

    「敷地内に園庭があれば、午後のおやつの後にも外遊びができる。必ずしも敷地内になければダメだとは思いませんが、遊びかたには差が出そうです」

    また、港区で園庭のない保育園に子ども2人を預けている母親は、

    「毎日、違う公園に行っているので、子どもは楽しそうです。まず保育園に預けることが優先なので、贅沢は言っていられないな、と思っています」

    保護者が子どもを預けたい認可保育園を探すとき、自治体のホームページや「入園のしおり」には、園庭については表記していないことが多い。

    保育園を考える親の会の普光院亜紀代表は「施設内に園庭があるかどうか、問い合わせるか見学するまでわからない。情報提供の仕方が不親切」と話す。

    園庭どころか保育園が建てられない

    都市部では、園庭に十分な面積を確保するどころか、新たに保育園を建設することさえ難しい現状がある。

    まず、認可保育園の基準を満たす土地や建物が見つかりにくい。見つかったとしても、騒音などを心配する近隣住民が反対し、建設が予定どおりに進まないことがある。

    このため、園庭にこだわっていたらますます保育園が建てられない、という意見もある。

    園庭がある保育園はもはや「贅沢」なレベルなのだ。

    さらに、そもそも親が子どもを預けたい保育園を選ぶことすら難しい。認可保育園の入園選考は、保護者の働きかたや家庭の事情によって点数化され、点数が高い順に自治体が決めるからだ。待機児童が多い地域では、それほど希望していなかった保育園に決まってしまい、そこに仕方なく預けるか、預けること自体を諦めるかの選択を迫られることもある。

    練馬区の保育園に子ども2人を預けている母親は言う。

    「選択肢がないにもかかわらず、ここに預けて大丈夫なのかという不安がずっとある。安心して預けられないと、子どもを預けてまで働くことに負い目を感じてしまいます」

    保育園を考える親の会の調査によると、2016年4月に認可保育園に新たに入園を申し込んだ人のうち、子どもを預けることができた人の割合は72.8%。昨年度の74.3%よりもやや低くなっていた。


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