あなたの夢をかなえて。虐待を受けた子どもに、私たちが贈れる「ギフト」がある

    児童養護施設などが本当に必要としているものは? クラウドファンディングがはじまる。

    東京都目黒区で、5歳の女の子が両親からの虐待によって亡くなった事件を受けて、虐待防止の活動をしているタレント5人が11月20日、社会的養護の啓発活動の一環として、クラウドファンディング「こどもギフト」をはじめた。

    記者会見で、イラストエッセイストの犬山紙子さんは「これまでの活動を通して、たくさんの人が児童虐待に心を痛め、何かしたいと思っていることがわかリました。あなたのことを思っている大人がいるんだよ、ということを子どもたちに伝えたい」とプロジェクト発足の経緯を説明した。

    多くの声から生まれたプロジェクト

    5人は2018年6月から、それぞれの人脈をたどって施設(乳児院、児童養護施設、自立援助ホームなど)を訪れたり、自治体や企業のトップ、専門家らと面会。ハッシュタグ #こどものいのちはこどものもの やアンケートを通して意見を集め、厚生労働省の牧原秀樹副大臣(当時)に要望書を手渡して意見交換もした。

    多くの声から生まれた「こどもギフト」のプロジェクト。そのひとり、児童養護施設で育った少年の声を紹介する。

    金色の髪、耳や唇につけたピアス。17歳のヨウスケさん(仮名)は2018年9月10日、千葉県市原市の自立援助ホーム「みんなのいえ」を訪れた、犬山さんとタレントのファンタジスタさくらださんに会った。自己紹介した2人が子どもの話をすると、ヨウスケさんは開口一番、こう言った。

    「1歳とか3歳とかって、かわいい時期ですね。これからどんどん荒れてくるかもしれませんよ。僕がそうだったんで。今だって、こんな見た目してますし」

    幼い頃は、純粋に大人に褒められたいと思っていた、とヨウスケさんは言う。大人は正しいと信じて「いい子」になろうとしていた。しかし成長するにつれて歯車が狂っていった、と振り返る。

    施設で蹴っ飛ばされた

    4歳の頃、両親が離婚した。母親のもとで暮らすようになったヨウスケさんは、日常的に虐待を受け、児童養護施設で生活することになった。

    「そこでは施設内虐待があって。職員に殴られたり蹴っ飛ばされたり、荷物を外に全部放り出されてそこで暮らせと言われたり。中学2年の時、もうどうにでもなれって気分になって、食洗機に入っていた包丁を取り出して人に向けてしまったんです。施設では面倒を見きれないからと、児童相談所に連れて行かれました」

    一時保護所で10カ月ほど生活し、別の児童養護施設に移った。そうした過去を振り返るとき、ヨウスケさんは何度も「しょうがない」という言葉を口にした。

    自分が悪さをしたので罰を受けても「しょうがない」、友達と遊べなくても「しょうがない」、顔も覚えていない親を恨んでも「しょうがない」......。

    「虐待を受けた子どもに対して『かわいそう』とか『悲しかったね』とか言う人がいるけれど、それは違う。その子はその人生しか歩んでいないんです」

    「過去は過去として置いておいて、未来に寄り添ったり、将来を考えられるような話をしたりしてほしいんです」

    美容師になって子どもの髪を切ってあげたい

    昨年から「みんなのいえ」で暮らしているヨウスケさんは、高校には行かず、近所の店でアルバイトをしている。まだ17歳なので深夜労働は認められておらず、夕方から22時前まで働く。

    「専門学校に行って美容師か保育士の資格を取って、お金のない子の髪を切ってあげたいんです。僕も小さい頃に苦しんだから、同じ苦しみじゃないから全部はわかってあげられないけど、ちょっとでもサポートしてあげたくて」

    髪を染めたりピアスの穴をあけたり、また戻したり変えたりする。ヨウスケさんにとって体と向き合うことは、自分と向き合う大事なプロセスだった。

    「18歳になったら、深夜のバイトもやりたいし、タトゥーも入れたい。デザインは、針がない羅針盤って決めてるんです。意味がちゃんとあるんです。自分の人生は、自分しか知らないし、示されている方角もないから、自分で進むしかない。そういう意味なんです」

    タトゥーのことや、好きなラップの話をするとき、ヨウスケさんはとりわけ笑顔になる。入居している少年たちや職員に、ラップを披露することもあるという。

    「大好きなラッパーに会ってみたい」と、ヨウスケさんは言った。

    「経験」をプレゼントする

    「みんなのいえ」のホーム長の小倉淳さんは20日の記者会見で、クラウドファンディングによって、子どもたちに「旅行」をプレゼントしたい、と述べた。

    「自立援助ホームに入居する子の中には、思いっきり遊んだ経験がない子がいます。ちょっと買い物に出かけるのでも、郵便ポストの使い方を知らなかったり、電車に乗ったことがなかったりと、私たちが当然のように経験していることを経験していないのです」

    「彼らが行きたいところに行ったり会いたい人に会ったりする機会をつくるため、50万円を目標に資金を集めます。これからの人生を大切にできるような経験をしてもらいたいと思っています」

    この他にも、第一弾のクラウドファンディングには、5つの施設や団体が参加。

    「励まされたり褒められた経験が少ない子どもたちは、行事を通して自信をつけていく。その挑戦をする場である体育館が築33年となり老朽化している」(児童養護施設 星美ホーム)としてホール改修費用の一部や、虐待に至った親の回復を支援する資金(認定NPO法人Living in Peace)などを集めている。

    Ready ForのCEO米良はるかさんは会見で、「この取り組みを機に、全国のさまざまな団体、児童養護施設に限らず、心のケアをする団体、里親など、子どもをサポートするさまざまな団体と、子どもの状況をよくしたいと思う個人をつなぐ取り組みにしたい」と話した。

    タレントたちの思い

    「こどもギフト」をはじめたタレント5人は、それぞれが仕事の合間に施設や専門家に連絡を取り、延べ約20回の訪問を重ねてきた。

    達増岩手県知事を訪問しました ー アメブロを更新しました https://t.co/jhGISsmhuA

    タレントの福田萌さんは8月、出身地の岩手県に住んでいる子育て世代にアンケートをとり、集まった意見を知事に届けた。

    「子どもを連れて遊びに行ける施設がほしい、病児保育がほしいといった子育ての悩みを多くの人たちが抱えていると知った一方で、子育て支援と経済合理性がリンクしないことにも気づきました」

    ある児童養護施設が、何千万円もの借金を節約でまかなおうとしていた実態も知ったという。

    「クラウドファンディングは、資金を出す人も受ける人もwin-winになる仕組み。虐待のニュースを見て、何かしたいけど何をしたらいいかわからないという人に呼びかけていきたいです」

    子どもの住む環境をよくしたい

    ミュージシャンの坂本美雨さんも、7月に乳児院を訪れたとき、資金集めに目を向ける余裕すらない施設の現状を目にした。

    「助かるのは、月に1回の訪問じゃないんですよ」

    と職員に言われたことが耳に残っている。

    「大事なのは子どもたちの暮らしそのもの。爪の切り方や髪の結い方、熱い鍋をテーブルに置くときには鍋敷きを使うといった、日々の小さなことの積み重ねが暮らしであり、その居心地のよさが、子どもの将来に関わってくるはずです」

    子どもたちの住む環境をよくしたい、と強く感じたという。

    タレントの眞鍋かをりさんは8月、東京都武蔵野市の児童養護施設「赤十字子供の家」を訪問し、BuzzFeed Newsで記事を掲載した。

    「虐待防止の活動をして、児童虐待を何とかしたいけれど、何をしていいのかわからずもどかしさを抱いている人たちの思いに触れました。子どものために何かしたい人は、思っているよりもずっとたくさんいると思います。ただ、みんな自分の生活や子育てに追われて日々精いっぱいでもあります」

    「クラウドファンディングは、お金を集めるだけでなく、対象となる子どもたち自体を応援し支えることに繋がります。成果が形として見えやすいぶん、自分が関わったことで子どもたちの状況がどう良くなったのか興味が湧くし、自分のアクションが届いたという安心感を感じられると思います」

    「専門家や児童養護施設の方にお話を聞いていると、虐待をなくすためのアプローチは様々で、賛否両論があったり、本当に正しい方法というのはわかりません。でも、正解がわからないから動けないのでは、子どもを守りたいという気持ちがあってもそれが無駄になってしまいます。もっと児童福祉に対し、普通の人が普通にアクションできるようになればいいなと思います。クラウドファンディングはそのひとつのきっかけでしかありませんが、少しでも子どものために何かしたい人と、子どもをつなぐものになればいいなと思います」

    タレントのファンタジスタさくらださんも、こう話した。

    「寄付やボランティアに参加したことがない人はたくさんいて、一人ではできないと感じる人もいます。今までこういう活動に参加したことがない人に届けたい。社会全体が、寄付やボランティア活動をすることが当たり前になって、子どもたちの未来につながりますように」

    「こどもギフト」の詳細はこちら